2021年11月27日

子宮内膜症、子宮腺筋症の漢方薬

 最近当店では子宮内膜症や子宮腺筋症のご相談が増えています。子宮内膜症については以前のブログでも何度かお話しさせていただきました。

子宮内膜症という病気は本来、受精卵を着床させるために子宮の中にできるベッドのようなもの(子宮内膜組織)が、本来はできるはずのない場所に増殖してしまう病気です。主に卵巣、腹膜、ダグラス窩など骨盤内にできることが多いですが、中には鼠経リンパ部、腸、膀胱、肺などにもできることがあります。この子宮内膜組織が子宮の筋肉層の中にできてしまう病気が子宮腺筋症です。

症状

これらの病気の症状としては、月経に伴う痛みが激しいことがあげられます。そして本来ないところでそのようなことが起こるわけですから、その周りには炎症や癒着が起こって、月経時以外にも下腹部痛や慢性的な骨盤の痛みが起きることがあります。これらの癒着などにより、卵管の働きが悪くなったり炎症により受精や着床に影響を与えて不妊の原因になることもあります。また、卵巣で起きた場合には卵巣の中で行き場のない血液が溜まって、ドロドロとしたチョコレート状に変化し卵巣が大きく膨らんできます。これをチョコレート嚢胞と呼び、中には症状がなく、いつの間にか大きくなってしまう人もあります。この病気は生理のたびに進行していく事が特徴です。若いうちは、生理痛がきつくても、鎮痛剤で何とかしのいでやり過ごせるので病気と気づかずに、生理とは痛みがあるもので異常だとは思っていない人も多くあります。年を取っていくに従い症状が重くなっていき、特に子宮腺筋症になると、年齢が進むに伴い、のたうち回るほどの痛みで、鎮痛剤を飲んでも仕事には行けないという方も多いです。40歳過ぎてから急に生理痛が激しくなり、婦人科に行ってみたら子宮腺筋症と診断を受けたという方もかなりあり、更年期近くになると病状がかなり進んでいるため、激しい生理痛に加えて、経血の量が異常に多くなってくることが多いです。昼間も夜用のナプキンをしているのに1時間おきに変えないと漏れるほど、夜はタンポンにさらにナプキンを当てないと漏れてしまうという方もかなりあります。こうなってくると、かなり強度の貧血も伴ってきます。貧血になると余計と経血もとどめる力がなくなり、さらに悪循環になってしまいます。このような状態になると医療機関では手術を勧められることも多いようです。

このように若い時の症状と、病状が進んだ更年期近くの症状はかなり違ってきます。生理痛があるということはこのような病気が潜んでいるかもしれないという事ですから、お若い時に漢方薬を服用して生理痛が起こらない状態に体質改善されると、これらの病気を防ぐことが出来ます。

原因

子宮内膜症や子宮腺筋症の原因ははっきりとは分かっていませんが、生理のある女性に起こる病気なので女性ホルモンが関係している事は確かですが、環境ホルモンが関わっているのではないかとも言われています。また、増加している原因としては、少子化や晩婚化により生理の回数が増えていることがあげられます。妊娠、授乳期間には約2年間生理が起きないのですから。

子宮内膜症と子宮腺筋症の漢方

まずはこの二つの病気は明らかに「瘀血」の証であると考えていくのが妥当だと思います。それに加えて、元々の体質を考慮しながら処方を決定していきます。瘀血に使う生薬には、牡丹皮、桃仁、当帰、紅花などがありますが、それらを含む代表的な処方には

  桃核承気湯、桂枝茯苓丸(料)、折衝飲、当帰芍薬散、当帰建中湯

などがあります。左ほど実証(体力が比較的ある人)向きの処方になります。当帰を含む当帰建中湯や折衝飲、当帰芍薬散は体を温めて血を補い痛みを和らげる働きがあります。同じ瘀血の証でも、胃腸が弱かったり、ストレスがあったり、冷えが強かったり、一人ひとり体質が違いますので、その方に合った漢方薬をお選びできるよう努力しています。この中で当店で最も汎用処方である「折衝飲」についてお話しさせていただきたいと思います。

「折衝飲」

この折衝飲という薬は、どうゆう意味があるのかと言いますと、衝を折るという字を書きますが、これはおそらく異常な苦痛、激しい痛みを取るという意味と思われます。ですから、この折衝飲という処方は、瘀血が原因で起こる腹部の痛みを抑える働きがあると思います。この処方の生薬構成を見ていくと、まず、桂枝、当帰、センキュウ、牡丹皮、桃仁という血行を良くする働きを持つグループと、延胡索、牛膝、紅花、芍薬という血行不良からくる痛みを楽にしてくれる生薬から成り立っていることがわかります。駆瘀血剤のグループには、牡丹皮という比較的体力のある人に使うものと、当帰という比較的貧血気味で体力のない人に使う生薬が両方使われていますので、幅広い人に飲んでいただくことが出来ます。もともと体力が中程度である人が、出血が多かったり、産後などで体力を落としてしまっている時にも使える処方だという事です。瘀血の状態があるのだけれど、体力が衰えて貧血のような状態になり、自律神経の働きが乱れて痛みを起こしているという時、に使える処方構成になっています。桃仁やセンキュウはほぼ中間の人に使うことが出来ます。その他、それぞれの働きには特徴がありますが、ここでは省かせていただきます。そして、この折衝飲の処方の適応には腹痛があります。この痛みに対処するために、延胡索を主として、牛膝、芍薬、紅花という血行不良からくる痛みを和らげる働きのある生薬が配合されているのです。延胡索という生薬は含まれているアルカロイドが痛みを止める働きがあって、良い仕事をしてくれます。それに加えて牛膝で瘀血を散らして痛みを楽にして、芍薬は血行不良からくる腹痛を止め、また、紅花には当帰と協力して造血の手助けもしてくれますし、鬱血を散らして痛みを止める力があります。文献には瘀血に対応している処方ですから瘀血による炎症に良いとあり、例えば子宮内膜症や腺筋症には炎症が起きていますので、その炎症、痛みの強いものに使うとあります。このように、絶妙な、組み合わせで、瘀血と炎症、痛み、ホルモンバランスの改善に働いてくれる処方が、この折衝飲なのです。この折衝飲を飲んでいただくような子宮内膜症や腺筋症の方は、痛みが強くて困っている人が多いですので、当店では効き目の良い煎じ薬を煎じ代行させていただいています。生薬エキスを乾燥させて散剤や錠剤にしたものに比べて効果は上回っています。味は美味しいとは言えませんが、当店では95%以上の人が、問題なく飲んでいただいています。

次に「芎帰膠艾湯」という処方についてお話ししたいと思います。

この処方はセンキュウ、当帰、阿膠、艾葉という4つの生薬を主剤として、さらに芍薬、甘草、地黄という生薬で構成されています。主剤となっている4つの生薬の働きから考えて、この処方は下血して止まらないような病状を呈している時に使われる処方という事になります。子宮の異常出血を起こして、なかなか止まらず、貧血になっている時に使うと良い処方であるという事が古い文献に書いてあります。妊娠中の異常出血にもよいとありますので、弱い人に使う処方という事がわかります。この中の艾葉(ヨモギ)はうっ血が原因となって起こっている出血の止血に使う、体力が衰えている時の鬱血の出血に止血の目的として使う生薬で、炎症が強いときには使わない方が良いとあります。そして、阿膠は体内が衰えて血行の働きが弱くなっているために出血を起こしている時に、まずは阿膠で体力をつけて、血行を良くし、それにより出血を防ぐ働きがあります。この二つの生薬は炎症があって充血性である程度元気な人の出血ではなく、出血が長く続いて体力低下を起こし、まずは止血をして、貧血を改善しようという人に使う生薬であるという事です。当帰という生薬も、この処方では、止血の働きを目的に配合されています。子宮の異常収縮を防いで止血を助ける働きが当帰にはあります。さらに、腹痛に働く芍薬や痛みに対する甘草、血行や陰虚に良い地黄を加えることにより止血のみでなく、痛みにも対応している処方であることがわかります。しかし、この処方は、血虚でありホルモンの働きが悪く血液の少ない人に使う処方であるという事、充血体質の人には使わない方が良い処方であることを忘れないようにしなくてはいけません。

これらの2つの処方を中心として、気血水の働きを考えながらその方に合った処方を考えています。

特に30代から40代前半の子宮内膜症、子宮腺筋症の方には上記のような折衝飲やそのほかの処方を中心に、瘀血や炎症を取り除き、まずはきつい生理痛が改善することを第一に考えてお選びします。また元々の体質がそれぞれおありですので、特に胃腸の調子や水分代謝などを考慮して処方を決定しています。そして40代後半から50歳前後の更年期時期の方の子宮腺筋症や、子宮内膜症は出血が激しい方も多く、ホルモンの力が落ちてきたり、貧血が進んでいる方には、まずは芎帰膠艾湯のような処方で、補血、止血を中心にお選びするようにしています。症状の変化とともに、駆瘀血薬も加えながら処方を変更していくという方法をとることが多いです。貧血が改善して体力が元に戻れば、瘀血を改善することは必須になってくると思います。

以上、子宮腺筋症と子宮内膜症に対する処方の例をお話しさせていただきましたが、選薬は簡単ではなく、体質も千差万別ですから、お客様に最適な処方をお選びできるよう努力してまいりたいと思います。   処方や生薬の解説につきましては、高橋良忠先生、高橋邦夫先生の近代漢方薬ハンドブックと実践漢方薬ハンドブックを参照させていただきました。

子宮腺筋症、子宮内膜症という女性の疾患は、漢方薬が効果的な病気です。対症療法だけではなく、体質改善もできる漢方薬をどうかお役立ていただきたいと思います。生理痛が普通ではない、鎮痛剤が手放せないという方は是非早めに対策を考えられることをお薦めします。

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